「しっぽのないシッポさん」のブログ

ベトナム・カンボジア旅行記その5/7‐アンコールワットの落書き‐


       
              アンコ―ルワット全景
 
 
許されていない場所に戯れに書かれたものを、落書きといいますが、
 
自分の存在を誇示するために記されるものである、ともいわれています。
そのおかげで歴史が鮮明に蘇り、時代背景が顕わになることもあるのですから、
 
落書きも時代を経ることで、社会的使命を帯びることもあるということでしょう。
アンコールワットには、日本人参詣者の墨書跡が15(識別可能14)ヶ所残っているとか。
その内13ヶ所が、中央祠堂の十字型中回廊の壁や柱(巾40㎝)などに見られます。
 
多くが3~4行の短文であるなか、
 
長いまとまった文章が読み取れるものとして目にし、ガイド氏から説明を受けたのが、
 
 森本右近太夫によるものでした。
壁面の文字を書き写したもの
 

 

寛永九年正月初而此所来
寛永九年(1632)正月初めてここに来る

 生国日本
生国は日本

 肥州之住人藤原之朝臣森本右近太夫一房
肥州(肥前:一部佐賀・長崎 肥後:熊本)の住人で藤原(家)の朝臣である森本右近太夫一房は

 御堂心為千里之海上渡
御堂(祇園精舎)を志し数千里の海上を渡り

 一念之儀念生々世々娑婆寿生之思清者也為
一念を念じ世々娑婆浮世の思いを清めるために

 其仏像四躰立奉者也
ここに仏四体を奉るものなり

 略

寛永九年正月七日
寛永九(1632)年1月7日

(墨書は縦書き) 

 
 

さて、文禄元(1592)年に秀吉によって下付された朱印状は、

海外渡航の許可を意味しますが、この制度は徳川幕府にも受け継がれました。

この許可状をもった日本の貿易商船は朱印船と呼ばれ、

初冬の北風と初夏の南風を利用し東南アジア各地を航行し、帰航していました。

寛永12(1635)年に鎖国の方針が出されるまで1603年から30余年続けられ、

約350~360 隻が行き来したということです。

また、Luzon(ルソン:フィリッピン)、

Cambodia(カンボジア)、Siam(シャム:タイ)など、

19ヶ所に日本人町がつくられ約7000人の居住者がいたといいます。

森本右近太夫もこの船に乗りアンコールワットに参詣したわけですが、

その3年後の寛永12 年(1635 年)には、鎖国令の方針が打ち出され、

帰国日本人にも踏み絵が課されました。

寛永16(1939)年には、ポルトガル船の来航も禁止されるなど、

海外渡航経験のある者がそれを公言できる時代ではなくなってしまいました。

森本右近太夫は改名し、

その後、細川家に仕えることとなった子孫も彼の海外渡航の事実を隠ぺいしました。

その社会変化の厳しさは、

「鎖国が個人とその一族に及ぼした影響を部分的ながら検証できた」※という、

石原(2000)の研究からも読み取れます。

カンボジアの植民地化と独立、その後の内乱により翻弄された親世代も、

その子ども世代であるガイド氏の苦労も国情によるものです。

森本右近太夫に限らず、運命としかいいようのない状況は、

いつの時代も、個人を超える何かがどのように在るかによるもののようです。

より良い未来を描くために、私たちは過去から多くを学ぶ必要があるということでしょう。

※石澤良昭 (2000)  アンコール・ワットにおける日本語墨書 碑文集 ユネスコ 


この記事へのコメント

  1. 紫陽花さん より:

    こんにちは。このような時間に、お邪魔できることは滅多にない私です。
    昨日までの研修を終え、今日はゆっくり…しております。
    さて、あの落書きですよね~ 私も見ました。自分の存在を誇示するため… とは言え、書いた本人は、平成の時代まで語り継がれるにいたるということを考えながら書いた…とは考えにくい。歴史とは大変なもの…と、つくづく感じます。
    しかし、この落書きを書いて残した人については、さすがに調べてませんでした。時代背景がわかると、この落書きの意味も大きく変わりますね。

    アンコールワットの写真。とても懐かしい気持ちになりました。私が見たときと、そんなに変わらないはず… 歴史的産物は、社会がどんなに近代化しようと、そこに変わらずあるもの。次にまた行くことができるときも同じ姿で存在していてほしいですね。

    道を抜けて、はじめてアンコールワットを目にしたときの感動。今でも鮮明です。再度あの感動を味わいたいです…

    暑さ厳しき折、お身体にはお気をつけ下さい。

    • シッポさん より:

      研修お疲れ様でした&遅れに遅れての返信でごめんなさい。研修+αで東京・京都と移動し、昨晩帰宅。道中PCへのアクセスをしなくちゃと思いつつもノータッチ。これも暑さ疲れ、と言い訳しています。

      ブログの「印象」について、試行錯誤中です。
      ポップアイ効果を狙って…ということで。
      ご意見、お聞かせくださいね。

      さて、いつか本当にご一緒したいものですね、アンコールワット再訪!
      暑さはまだまだ続きます、お互いバテないように!!!

  2. ピアのっこさん より:

    カンボジアに行ったことはない、私。
    アンコールワットの落書き、いつか見てみたいものです。

    落書きといえば、この前、見ました。
    子どもの頃、書いた自分の落書き。
    可愛い自分が書いた、かわいい絵や文字。
    自分を愛おしく思いました。
    そんなこと、思いながら、いただいた西瓜に、
    落書きしてみようかな と思っているところです。

    シッポさん、
    これからも、カンボジアのこと、歴史・・・
    諸々、教えてくださいね。
    よろしくお願いいたします。

    • シッポさん より:

      「自分を愛おしく思いました。」 ― 昔の自分に会ってみたいですね…。
      西瓜落書き体験はいかがでしたか?
      カンボジアは、私にとってももっともっと知りたい国になりました。
      また、カンボジアの人たちにも、日本のことをもっともっと知ってもらいたいと思っています。
      これからもいろいろアップできたらと思っています。
      こちらこそよろしくお願いします。

  3. しゅんりんちゃん より:

    シッポさん、遠方へお出かけのようでしたが、
    お疲れはもう取れましたか。

    私も、ちょっとご無沙汰をしてしまいました。
    今年はお盆に伺わなければならない所が多く、恙なく
    お盆行事を済ませたところです。

    あちこちへと伺っていると、決まって故人の話しから
    昔話しをそれぞれが話し始めていました。

    「昔は…」とか「あの時は…」とか、懐かしいことばかり。
    話しているおば達も得意げに話していました。

    このたびの「落書き」のブログを見て、思いました。
    「落書き」は文字とか絵で残すことができて、誰かが
    見てくれることも期待できますね。
    すごく大事なことだと思いました。

    「話す」ことは言い伝えていなかったら忘れられて
    しまうことばかりだな、って。
    家族のこと、地域のことなどからもっともっと広く
    世界のこと(大袈裟?)。
    誰かがしていかなくてはいけないことだと感じました。

    カンボジアにもベトナムにも行ったことのない私は
    シッポさんのブログは想像するしかありませんが、
    おば達の話しから私のちっちゃな歴史を感じました。

    今、すずしい風が吹いてます。
    この時間の気温にしてはめずらしく30℃です。
    秋のおとずれと感じるのはまだ早いでしょうね。

    残暑を乗り切れるように用心しながら、頑張りましょうね。
    お・た・が・い・に。

    • シッポさん より:

      紫陽花さん(9日)、ピアのっ子さん(13日)、そして、しゅんりんちゃん(19日)…コメントをありがとうございました。
      予告なしで、遅れに遅れての返信&ブログアップなしの日々を重ねて、ごめんなさい。
      ブログは継続することにこそ意味があります。
      例の!?「断続的継続法」ですが、今後も、引き続きお付き合い下さいませ。
                                                   
      さて、日付をメモしておいた子どもの落書きが2枚出てきました。
      4歳児の父親となった息子が4歳の時に書いた「おとうさん」です。
      コピーしたものを手元に残し、原画は息子に渡しました。
      100円ショップで購入した素朴な4つのフレームの中に納まった落書きには、当時の思い出がいっぱい詰まっているよう…。

      また、話す・話されること(=物語)は、とても大切な作業ですね。
      しゅんりんちゃんの「 ― 故人の話しから昔話しを ― 」には、故人とその方との確かな関係性が浮かび上がってきました。

      五感の中で最後まで機能するのは「聴覚」だと聞いたことがあります。
      だから、無反応という反応を信じて「話しかけることが大切…」と言われているのですね、きっと。

      本日は「処暑」。暑さがおさまる…とか。小さな秋を見つけることを楽しみたいですね。

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